【特集】 環境意識の高まりと深刻な部材不足 求められる遊技機廃棄システムの検証
遊技通信2022年9月5日
行政講話で指摘された廃棄台適正処理システムの再確認
「業界では、他の業界と同様、CO2排出量削減などに取り組んでいますが、業界独自の課題として思い当たるのが、『遊技機の廃棄』についてです。(中略) 遊技機の適正廃棄は、業界が当然果たすべき責任の一つです。これまでも遊技機メーカーを中心に廃棄システムが整備されてきていると承知していますが、それが果たして万全なものとなっているか今一度検証の上、引き続き必要な対策を講じられることを期待しています」。
今年6月、都内新宿区のハイアットリージェンシー東京で開催された日遊協の第33回通常総会で、警察庁保安課の小堀龍一郎課長(当時)が行った行政講話の一節だ。席上、小堀課長は新型コロナ禍という不測の事態に見舞われながらも、計画的な旧規則機の撤去を行った「業界全体のまとまり」を高く評価。その上で、最近、よく耳にするようになった「ESG」(Environment=環境、Social=社会、Governance=ガバナンス)という3つの観点から、今の業界を取り巻く課題を整理した。
その冒頭で指摘したのが、遊技機の廃棄問題だ。「ESG」の順番とはいえ、これまでの行政講話でこのテーマが真っ先に取り上げられたことはない。しかも、業界はすでに排出遊技機の適正処理の仕組みを構築している。旧規則機の撤去に伴って、排出された旧規則機の不法投棄や野積みといった問題も、今のところは出ていない。それでもなお、この検証を求めた意味合いはどこにあるのか。
日々の営業に苦心する状況が長いホールにとって、「業者任せ」の側面が強い遊技機の適正処理問題は、それほど関心の高いテーマではないだろう。が、今回の旧規則機の大量撤去にあたっては、少なからずの課題が表面化したのも事実であり、たしかに小堀課長が指摘する通り、その「検証」が求められる要素が垣間見られるようになっている。
1994年に埼玉県寄居町で発覚した廃棄遊技機の野積み問題。処理費用を業界が負担した。環境意識が高まった今、同種事案が発生した場合の業界のダメージはかなり大きいものになるのは間違いない
大量の旧規則機が使われ続け、日増しに高まった適正処理への不安
しかも、その旧規則機のボリュームも大きかった。改正遊技機規則が公布された2017年9月から、これが施行される2018年2月までの間に、旧規則機の延命措置として前もって認定申請を行なう動きが各地で相次いだからだ。
この時、検定有効期間に余裕のある機種でも、新規則下でできるだけ長く使うために認定を申請する動きが加速。業界ではこれを「前倒し認定」と呼び、ピークとなった同年11月にはパチンコ、パチスロ合わせて70万台を越える規模の認定申請がなされた。これは、1カ月の申請台数でいえば例年の数十倍のボリュームで、大半のホール側が一種の冬ごもりの準備に走った結果、トータルでは市場の約4分の1にあたる100万台超の認定申請がなされている。
これらの遊技機は、本来であればそれぞれの検定有効期間に合わせ、五月雨的に撤去されたり認定申請されるはずの存在だ。しかし、その多くが前倒し認定を取得したことから、結果として認定の有効期間が揃ってしまい、経過措置期間が満了する2021年1月に集中。その後、新型コロナ禍によって経過措置が1年延長されたことで、旧規則機の撤去は多少は分散されたが、基本的には2022年1月にそのままスライドしている。
実際、昨年9月の時点で市場に残る旧規則機はパチンコ、パチスロ合わせて100万台超に上った。日工組遊技機回収システムの処理会社4社を含む遊技機リサイクル選定業者の処理能力を考えると、これはかなりタイトな展開だった。
しかも、適正処理が求められる旧規則機はこの市場で動いている100万台だけではない。全日遊連が行った遊技機保管状況調査によると、ホールの自社倉庫や販売商社、運送業者などに保管されている「5月末時点で検定・認定切れの旧規則機」は、パチンコ、パチスロ合わせて計41万台。アンケートの未回答分や、この時点では検定や認定の有効期間が残っていた遊技機も相当数存在していることから、これらを単純に足しただけでも約160万台超の旧規則機が市場に残っていると推測されたのである。
遊技機リサイクルの処理工場には大量の使用済み遊技機が運び込まれる
業界団体と行政の懸案事項も、ホールの関心は薄い?
改正遊技機規則の経過措置期間、行政担当官と各種の折衝をする業界団体の関係者の中には、この膨大な旧規則機の適正処理問題に行政が懸念を抱いていたことを、肌で感じていた人が多い。特に遊技機の供給側の関係者は、「これまでに作り上げたシステムを遺漏なく進めるためには、個々のホールの協力がどうしても不可欠」とし、この時、万全の体制で臨む姿勢を示している。
特に日工組では、買取回収や注意喚起のチラシの配付するとともに、組合ホームページ上で下取り・買取り対象機種の情報、新規則機に使用できない枠の情報を発信し、旧規則機の早期排出を促した。これと並行し、日工組遊技機回収システムの処理会社4社では、撤去期限間際に多くの旧規則機が排出されることを想定し、人員の確保や新たな保管場所の検討などの準備を進めている。
さらに、遊技機の供給4団体に全日遊連、日遊協を加えた6団体で構成する遊技機リサイクル推進協議会は2021年の11月末、遊技機流通に携わるすべての関係者に向けて「遊技機適正処理ガイドブック」を発行。あらためて遊技機の適正処理に対する認識を持つよう促した。
しかし、旧規則機をギリギリまで使うホール側の思惑も根強い。結果として日工組では、2021年の暮れ、市場に残る旧規則機の数がリサイクル業者の処理能力を遥かに上回ることが決定的だと判断。ホールの倉庫等に保管されている旧規則機も含め、これらが一気に排出された場合には、撤去した旧規則機を一定期間、ホールで保管してもらうことになる可能性があることを告げている。
特に、新規則機におけるポテンシャルの回復が遅れたパチスロでは、2022年1月末の最終期限に撤去が集中することが避けられない情勢が見えてきたことによって、適正業者として選定を受けていない処理業者への流出が懸念された。パチスロには「闇スロ」への流出という懸念要素も加わっている。
大手ホールでは計画的撤去進むも、中小では混乱期特有の戸惑いも
行政や業界団体がホールに強く求めた「計画的撤去」では、その対応に温度差も出た。やはり大手ホールほど計画的撤去に向けて早くから準備を整えており、「各都県での検定満了日、認定満了日を可視化し、撤去期限前の入替日を確認し、1台の撤去漏れもないよう、各店の入替計画を組んで対応した」(マルハン東日本カンパニー)、「撤去対象の総量や撤去タイミングなどによる業績への影響を考えるとともに、撤去するための新台スケジュール予測や中古台の確保なども総合的に鑑みたスケジューリングを行った。その進捗状況によって予定修正を繰り返し、段階的に撤去を完遂させた」(アンダーツリー)など、やはり事前の体制をきちんと整えて対応している。
一方では、「経過措置の再延長があるのではという噂が出たり、近隣の店舗がそのまま旧規則機を使い続けるのではないかといった疑心暗鬼があったりと、とにかくギリギリまで判断を保留する連続だった」「メーカーが下取りする可能性がある機種は、次機種の販売までは保管しておきたいと考え、倉庫整理は進まなかった」など、混乱期特有の事情を語るホール関係者もいる。また、複数のホール関係者が指摘するのが「期限までに外すことは外す。が、処分するのはいつでもできる。処分後に『残しておけばよかった』と思いたくない」という考えだ。
いずれにしても、同じ「計画的撤去」という言葉でも、行政や業界団体が「排出台が適正処理されるまで」を想定していることに対し、ホール側は「検定、認定の有効期間までに撤去する」という解釈に留まった印象が強い。
ただし、ここでも大手と中小とでホール間の認識には温度差があり、多くのホールが「業者が適正に処理してくれている」として現状を問題視していないのに対して、「野積みや不法投棄を出さないという業界の社会的責任を果たすのは当然。産廃法に伴うマニフェストやSDGsに貢献しうるリサイクルなど、業界として取り組んでいければいいと思う」(アンダーツリー)、「野積みや不法投棄は業界として真摯に向き合うべき課題であり、あってはならない問題」(マルハン東日本カンパニー)といった具合に、すでに小堀課長の行政講話で触れられた「ESG」を意識したスタンスを持っていることが窺える。
排出遊技機の処理は業者任せ「ちゃんとした業者に任せている」
ホールにとっての「計画的撤去」という言葉の意味合いと、リサイクルを軸とした適正処理までを視野に入れる行政や業界団体のスタンスの違いは、なぜ生じているのか。これは皮肉なことに、ホールが不要台の指示を「適正な業者」に行い、マニフェスト伝票などの関係書類の保管をきちんと行ってさえいれば、特段問題が生じないシステムを業界全体で構築した結果だ。単純に「ホール側の意識が低い」と言えるものではない。
また、ホールが不要台の処理を業者任せにする要因のひとつとして、システム全体の流れが複雑で、立場上、それに精通する適正業者に依頼するしかないという事情もある。ホールの営業現場から外される遊技機は、チェーン店間移動や中古機市場に流すもの、メーカーが下取りするものは基本的にホールが管理するが、その移動後は移動先が排出事業者になる。一方で、不要台となったものはホールが排出者責任を負うが、遊技機リサイクル推進委員会の指定事業者にきちんとした処理が委託される。
複雑さをみせるのはここからだ。まずはパチンコ機とパチスロ機とでその扱いが基本的に異なる点。パチンコ機の場合、基本的には日工組が主導する環境省認定の広域回収システムで処理されるが、一方で日電協は、使用済み遊技機の処理は組合主導ではなく、加盟メーカー主導の考え方をとっている。加盟メーカーに対して積極的な下取りの実施を推奨するとともに、下取り対象とならなかった使用済み遊技機の適正処理を促す手段として、遊技機リサイクル協会への参加を促しているのが現状だ。
ところが、この2つの適正処理の仕組みには加わっていないメーカーが一部にあることや、メーカーのセカンドブランド、サードブランドの増加、さらにはパチンコ、パチスロのどちらも供給するメーカーが増えたことで、その複雑さが加速。ホールにしてみると「それをわかっている業者」「きちんと処理してくれる業者」に区分けを頼まざるを得ない状況になっている。
部材不足で機械代はなおも高騰か、欠かせないリサイクル体制の検証
大方のホールにしてみると、「丸投げしても、結果として問題がないのだからいいのでは」と思うことだろうが、そうも言っていられない課題もある。世界的な半導体不足、部材不足の影響で、高止まりしていた遊技機価格がなおも上昇する気配を強めていることだ。
部材によってはかつての市場価格100円のものが1万円を超えるほどの高騰局面にあって、今のメーカーは製造台数や販売計画の策定にかなり苦慮している。ホールにとっては高いと思われる新台価格でも、販売台数によっては赤字になるとして、新機種の市場投入に二の足を踏むメーカーもあるそうで、人気機種の再販もままならない。結果、一部の人気機種の中古機価格は新台価格を遥かに上回る「超高値」状態が恒常化し、ホール経営の大きな課題である設備投資負担をより重くする流れが止まらない。メーカー側にしても、この冷え込んだ市場の中で、今以上の遊技機価格の上昇にホール経営が耐えられるかどうかの不安が拭えない。
こうした状況下で、流通市場で不足する各種パーツをいかに確保するかを考えた場合、既存遊技機からのリユース部材に関心が向くのは当然だろう。当初は、一連の半導体不足を一時的なものとする見方もあったが、最近では「仮に十分な供給体制が整ったとしても、そちらの方が『一時的なもの』であり、またいつ不足するかが分からない不安定さは残る」という見立ても出ている。
設備投資負担が重くのしかかるホールにしてみると、これはもはや無関心ではいられないテーマだ。また、SDGsを始めとした昨今の環境意識の広がりは、排出者責任のあるホール自身が、「業者が適正処理してくれている」に留まらず、いかに適正に処理されているかの説明をきちんと行う必要性を高めている。
こうしてみると、冒頭で触れた行政講話が促す遊技機のリサイクル体制の検証は、業界にとって重要かつ喫緊の課題であることは間違いなさそうだ。疲弊した今の業界環境を考えと、なおさらその意味合いは重い。業界内の「無関心な立場」をなくすための関係団体の具体的アクションに期待したい。
環境意識の高まりに加えて半導体不足の影響も深刻化している。既存遊技機からのリユースは遊技機価格抑制のためにも欠かせない要素になりつつある